モペゾム・ド・思考

抽象性、無意味、無駄、

焚き火について 午後六時

 火を見ているだけで良かった何ら発展性はないがそこには無謬なる平穏があった平穏の只中自己の存在が淡路島の大気に希釈されていくような気がした何者かであり何物でもない自己と揺らぐ炎との間に自らの意義を重ね眠れる時は眠り起きたる時は起きそれは命の生滅ともいえる波の中で烟る白煙に永遠を儚んでは私という人間の最期に大いなる呼吸さえも止んでしまったかのような気がした私は炎そのものだった眼前に喫しては炎にかんしてただ唯一の理解者であり嗚呼しくしく薪の爆ぜる音色があってあわや私も泣き出しそうだったどうあろうともなかろうとも私という自然が島を突き抜ける風に拐われたいと思っており私は凝っと焚き火を眺めていた私はその片手間でこの全宇宙に生けるすべての生命とその営為さえも呪っていたのかもしれなかった満足という満足も不満という不満さえもなくただ無聊といえば無聊であって抽象性の横溢し夢の如くは現とは不見論理も遠慮もない純然素朴の期待が姿を見せそれだけが炎の中に揺らめいていた私は目で以てそれを見たこの火の国の興りし岩稜にてもう一度文明に火を灯そうと思ったそして大火の火種こそはこれが切欠になろうという期待が炭のうちに燻れるのを見て激甚に上気し酩酊した炎ほど実直なものはなく炎上の志さえあればどこまでも延焼するまた炎ほど貪欲なものはないその空間のあらゆる質量をエネルギーへ置換し爆発的に成長するその限りを知らず手の届く範疇にあれば何もかもを喰い尽くしてしまう様はまさしく手の象徴に他ならない荒々しき熱の化体それに伴い肥大化する空間呼応するかのように暴れ出す水分は枝の切り口から泡となって噴出する最早何も留めおくものはないのだと啓す光やはり炎は偉大であるゆえにこそ喪失は耐え難い荒涼たる風ああ寒くて死んじまいそうだもう一度火を起こさねばなるまいなるまいよ