モペゾム・ド・思考

抽象性、無意味、無駄、

間道

 浅い眠りを縫うように私は外へ出た。合宿の午前四時半、この世で何よりも澄んだものは何か。それだけ知りたくて施設を後にした。明けの小路。朝の到来を待つような静けさのなか、草木とともに、こころの不安が晴れるのを待っている。スマホの明かりだけが頼りだ。規制の敷かれないアスファルトの道から外れ、地元の人と獣しか使わないような道を選んだ。一歩ごとに後ろ髪を引かれるのが分かる。後悔、背徳感、純真に対する裏切り……分かっていた。禁まで犯して、何よりも澄んだものを探す私の心は、何よりも濁っている。心理に囁くのは、幽霊ではなく、最も真に迫った、そういう不安、自らの自らに対する猜疑心だった。

 獣道は遊歩道へ至り、やがて運動場へと繋がった。昨日、あれほどの人間が動いていたとは思えないほどの、残酷な静寂がそこにはあり、風と、遠いそよぎに震える。今朝は寒いとスマホが教えてくれた。運動場の三方は木々に阻まれていて、どうにも抜けることは難しそうだった。歩いているうちに、皆の眠る社屋の方へと自然体が向く。朧げな街灯に照らされ、紫紺に浮かび上がる建物には安心があった。なにか泣き出しそうな安心感が、確かにあった。

 背くように、来た道を下りる。アスファルトは続いており、家々が点在しているのが見て取れた。そのうち、一軒のみが既に灯りをつけており、私はついに居場所を失ったかのように思われた。光、営み、何ものとも目を合わせないよう坂を駆けると、いつの間にか海へ出ていた。

 風、そよぎ、凪いだ浜。水平線。白波が遊んでいる。

 この世でいちばん澄んだもの。それは朝の空気だと思っていた。正しくは、朝の空気に満ちたわたし。風に包まれるわたし。そよぎを聴くわたし。無人のグラウンドを走るわたし。凪いだ浜を歩くわたし。水平線に視線を飛ばす、わたし自身。わたしという存在と、朝の澄明さ、それによってすべてが完成すると思っていた。

 今日は寒い。あたたまりきる前の今日は、もっと寒い。起毛のスウェットにして正解だった。埠頭のへりで一隻の船を追う。水平線の向こうに私の求めるものはあるのか。かじかんだ指先に船を乗せて、行く末を案じていた。

 やがて朝霧の反射に船は消え、わたしはスウェットに顔を埋めた。「それを持っていけ」と諭した母。もっとも手近な安心を、抱き寄せる背中は丸い。

丘の上で予鈴が鳴った気がした。