モペゾム・ド・思考

抽象性、無意味、無駄、

信号待ち、信号無視、少女の距離

 問題:俺があの信号を無視した少女に追い付くのは何時間後か。但し、横断歩道は2mとし、少女は何かの焦燥を携えているものとする。

 

 現実の遠望。我が悪意なきは善良人の心境には悪意のごとく映るようであり、私はそうした事実に対する術として事情不通の無知を徹した毅然たる面持ちをしたのだった。

 よく、争いは同程度のものでしか起こり得ないという諺が囃されるが、あれも結局、争いも対話の一形態に過ぎないという証左でしかなく、本質的に、対話というものは対等の間にしか生じ得ないのだ。ゆえに、人と交わりたきは、対する人の加減によって容易く衰えたがる。そしてその逆は有り得ず、いくら人と交わりたきとて、人の知能が忽然と増長することはない。この点、人と人との関係を規律する唯一則は不平等であり、或いは対話というそれ自体さえ状態の不平等を前提として進められる交流なのかもしれなかった。

 これを思えば終に今まで人と対話したことはないかのごとくであって、容易く衰えるに甘んずる事なきは、ただ他人との接触を拒んでいるかにさえ見えた。誰かに話し掛けているようで本質的には単なる独白であり、傾聴も詩吟もそれ自体は分別されることのない一体の所作として遍く市井に偏在し誰も彼もが詩人であり、友人などはこの世に一辺一組たりとも存在しないのかもしれなかった。

 私は詩吟したくて朝夕を駆け抜け夜に留まり次いでの来光を呷るのだったか。徹した無知、毅然と無関係を言う顔面がにわかにモノローグの欲求に餓え怒罵という怒罵を渾然した叫びを上げ猛り狂い眼前の白も黒も赤さえも定まらぬまま光芒を掻き分け天佑を祈り数多の驚愕と実時間の法則を置き去り速く、速く過去と現在と未来を凡そ一間に圧縮し明滅の韋駄天として無重力を走ったか。

 走り得たというのなら、二時間後、私はあの少女に追いつくことさえかなっただろう。

 私を急き立てる小雨は昨日降り済まされた。

『ハーモニー』を職場に忘れた帰途だった。